長門湯本REPORT:第5回長門湯本温泉みらい振興評価委員会が開催されました
この回の要点 | 第5回(2022年7月4日)
委員全員オンライン。基金活用と公衆トイレ等の整備を議論した回。
- 温泉地ランキング 55位(2021年)
- 委員採点:高橋5・田中4・中尾4・のかた5・林3.5・星野3
結論:施設整備と基金運用を着実に進行。
2022年7月4日(月)、第5回目となる「長門湯本温泉みらい振興評価委員会」が開催されました。今回は委員全員がオンラインで参加する形式での開催となりました。
これは、外部の専門家等が長門湯本温泉の観光まちづくりを検証し、その知見をまちの未来に生かすために、長門市長門湯本温泉みらい振興基金条例に基づき、年に2回開催されるものです。
■ <長門湯本温泉みらい振興評価委員会>
長門市長門湯本温泉みらい振興基金条例(令和元年12月26日条例第16号)に基づき設置され、第三者評価とするため外部の有識者で構成。長門湯本温泉の持続的な観光まちづくりを進めるため、本基金の使途の透明性の確保および運用の適正化を狙いとする。
長門市およびエリアマネジメント法人(長門湯本温泉まち株式会社)が本基金を財源として実施する事業を評価するとともに、持続的な観光まちづくりにつながる事業に要する本基金の処分について、市長に意見を述べる。
※この会議は原則公開となっており、会議の模様はyoutubeにて全編が公開されています。
評価委員会には以下のメンバーが参加しました。
| 氏名 | 所属・分野 | 出欠 |
|---|---|---|
| 梅川 智也 | 國學院大学/学識経験者 | オンライン |
| 高橋 俊宏 | 株式会社ディスカバージャパン/メディア | オンライン |
| 田中 智之 | 熊本大学大学院/建築・空間デザイン | オンライン |
| 中尾 大介 | 株式会社WAKU WAKUやまのうち/まちづくり・金融 | オンライン |
| のかた あきこ | 旅ジャーナリスト | オンライン |
| 林 千晶 | 株式会社ロフトワーク/コミュニティデザイン | オンライン |
| 星野 佳路 | 星野リゾート/観光業 | オンライン |
| 伊藤 就一 | 長門湯本温泉まち株式会社 代表取締役 | 出席 |
| 木村 隼斗 | 長門湯本温泉まち株式会社 エリアマネージャー | 出席 |
| 大谷 和弘 | 長門湯守株式会社 共同代表 | 出席 |
| 江原 達也 | 長門市長 | 出席 |
審議・検討事項
(1)令和3年度 長門市の取組結果について
(2)令和3年度 長門湯本温泉まち株式会社の取組結果及び観光地経営に関するモニタリング結果の報告について
(3)令和3年度 観光地経営に関する評価について
開会
まず冒頭に、江原達也 長門市市長より開会の挨拶が行われました。
〜市長 挨拶要旨〜
市長は「長門湯本温泉がリニューアルしてから、未来振興評価委員会も今回で第5回目を迎える。コロナ禍という想像もしなかった事態に直面し、長門湯本温泉のみならず、長門市、全国的にも観光業にとって苦しい状況が続いている。まだまだ今まで通りとは言えないが、徐々に観光客が戻ってきているという話も耳にする」と振り返りました。
そのうえで「苦しい中ではあるが、温泉街においても先日の西鉄バス『おとずれ号』運行開始をはじめ、様々な取り組みが少しずつ実を結んでいると考えている。ただし、安易にコロナ前に戻るという考えではなく、様々な課題に向き合い、官民が連携した持続的な観光地経営をしっかり進める必要がある」と意気込みを示しました。
(1)令和3年度 長門市の取組結果について
長門市観光政策課から、令和3年度の取組状況について報告がありました。
〜報告要旨〜
1. みらい振興基金の現状と積立計画の再検討
2020年春からのコロナ禍による観光客減少に伴い、2021年度の入湯税収入が当初の想定を大幅に下回りました。これにより、本来入湯税で賄うはずのエリアマネジメント事業費の確保が困難となったため、一部基金を取り崩して財源を補填する措置を実施しました。また、落雷による照明器具の故障など想定外の事象も発生しており、中長期的な基金の積み立て計画について再検討する必要性が説明されました。
2. 景観インフラ(照明器具)の維持・修繕
長門湯本温泉内の約70箇所相当の照明器具に不具合が発生しています。このうち「界 長門」(星野リゾート)前の地下埋設照明については令和3年度中に修繕を完了しました。それ以外の箇所については現在、不具合の調査業務を発注中であり、その結果が判明し次第、順次修繕予算を確保していく方針が示されました。
3. 駐車場内への公衆トイレ新設
地元からの要望を受け、駐車場内へ公衆トイレを新設することが決定し、令和3年度にその設計業務が完了しました。
構造・意匠: 木造平屋建ての2棟方式で、外壁には漆喰、屋根には赤瓦を採用します。
設備:男女別および多目的トイレを設置し、バリアフリー設備、ベビーチェア、多目的シート、オストメイトを完備します。
配慮:LGBTQなどの多様な観点に基づき、駐車場側から入り口が直接見えにくい構造の設計としました。
4. 足湯の水温管理対策
温泉街にある「河川公園足湯(山口県所有)」と「おとずれ足湯」の2か所のうち、水温の低下が問題となっていた「おとずれ足湯」について報告されました。現場での入念な調整を重ねた結果、現在は適正な水温管理ができる状態へと改善されています。
5. 景観修景と観光プロモーションの実績
景観修景:令和3年度の景観修景に関する届け出は24件あり、そのうち5件が補助事業を活用して外壁・瓦・門扉の新設などを実施しました。
観光プロモーション: 総務省の事業を活用したフランス向けのテレビ番組制作や、女性に人気の旅行雑誌『ことりっぷ』への情報掲載など、国内外へ向けた魅力発信を行いました。
(2)令和3年度 長門湯本温泉まち株式会社の取組結果及び観光地経営に関するモニタリング結果の報告について
長門湯本温泉まち株式会社 木村隼斗エリアマネージャーより、令和3年度の取組結果と観光地経営モニタリング結果について報告がありました。
〜要旨〜
1. 宿泊動向とRevPAR(収益性)
宿泊動向: 全国の宿泊者数がコロナ前比で54.5%減と深刻な打撃を受けるなか、長門湯本温泉は約3割減に留まりました。近隣からの「マイクロツーリズム」の傾向が全国平均よりも顕著に表れ、地域の柱となる魅力やコンテンツが明確になってきました。一方で、エリアマネジメントの最重要課題である「閑散期対策」については、まだ十分な効果検証を行う段階には至っていないと共有されました。
RevPAR:コロナ前後の比較において、「界 長門」の開業による全体のベースアップが見られるものの、時期による波をなくす「平準化」が引き続きの課題となっています。
2. 新規投資・事業環境の変化
新規投資・出店:温泉街の新たな魅力として「サンロクロク(ビール店)」をはじめとする3つの店舗が新しくオープンしました。一方で、コロナ禍の影響により、地元の老舗旅館1軒が廃業に至ったことも報告されました。
まち会社の役割: 現在は、温泉街の美観維持や景観協定の運営、既存店舗との意識醸成(コミュニケーション)に注力しています。
3. 従業員満足度・生活者関与度(課題と対策)
従業員満足度:令和3年度に初めて9項目のアンケート調査を実施しました。その結果、「重要度が高いのに満足度が低い」項目として「温泉街エリアとして目指す姿の共有」と「温泉街の好きな場所の認識」の2点が浮かび上がりました。まち会社として重視していた部分が課題となったことを真摯に受け止め、対策として、宿の従業員の方々と一緒に街歩きを行う取り組みの定例化を提案しました。
生活者関与度:定量的なモニタリング手法の構築は今後の課題としつつも、今年度は地元小学校との連携や、トークイベントなどを実施しました。来年度は、地元の子どもたちの取り組みに温泉街の目指す価値が継承されているかを把握するため、新たなアンケートを設計する方針です。
4. メディア露出とランキングの現状
メディア露出: ターゲット層に沿った確かな認知形成が進んでいると評価されました。なかでも福岡との直行便である西鉄高速バス「おとずれ号」の開通は、福岡市場へ向けた戦略の肝となる最大のトピックであり、今後は足元から具体的な仕掛けを増やしていく意気込みが語られました。
温泉地ランキング:2021年のランキングは55位となり、前年よりも順位を下げる結果となりました。この現状を関係者一体となって受け止め、次の施策に活かしていく方針です。
5. 事業の健全性(財務・運営体制)
みらい振興基金からの安定的な財源確保に謝意が示されたほか、観光庁や総務省の補助金を活用して約5,000万円弱の事業費を確保したことが報告されました。さらに、今後は駐車場の指定管理業務の開始も予定されており、自主事業の基盤を整えていく方向性が共有されました。
◆ 大谷共同代表(長門湯守)報告:恩湯の価値発信とグローバルサウンドバス
長門湯守 大谷共同代表からは、コロナ禍2年目の恩湯運営と、新たに踏み出した国際連携の取組が報告されました。
〜要旨〜
最も大きな話題となったのが、6月22日の夏至に実施された「世界のお風呂の日」国際イベント(グローバルサウンドバス)への参加。世界温泉協会の丸山先生の仲介で、日本代表として参加し、広島の琴演奏者・木原さんを招いて、松明を炊いた川床で演奏を披露。「温泉を通したインバウンドのネットワーク作りができた」と評価されました。当日の映像は編集遅延で披露が間に合わず、アメリカ本部へ後日送信予定です。
恩湯の価値発信としては、林委員の「恩湯の良さをもっと分かるように示すべき」との指摘を受けて作成した「ぬる湯のすすめ」「そのまま温泉に入る贅沢」をテーマにした解説冊子を、来館者全員に配布。大学教授の協力で英訳版も完成しており、インバウンド向けホームページ化・冊子化を予定。Discover Japan山口に掲載された宮司・住職対談についても英訳化を進め、「どこにもない温泉地の価値」の発信を目指していくことが共有されました。
(3)令和3年度 観光地経営に関する評価について
各委員より、令和3年度の観光地経営に関する評価が発表されました。
〜星野委員要旨〜
星野委員は「3点とした理由は後ほど説明する」と前置きし、「改めて市長はじめ長門市の皆さんに伝えたいのは、この委員会は日本の温泉地・観光地のなかで非常に理想的な場になっているということ。市長が全ての意見を聞いて参加している事例はほとんどなく、他の観光委員会では大体最初の10分で市長は退席するケースが大半だ。観光の専門家がそれぞれ入っているこの委員会の場を、ぜひプライドを持って継続してほしい」と、委員会自体への謝意を述べました。
具体的な指摘として、公衆トイレの数について「便器の数は少ないほうがいい。長門湯本にはすでに公衆トイレが複数あり、トータルな数と場所のマスタープランが必要だ。コスト(建設・運営)の問題に加え、トイレ清掃をモチベーション高くスタッフにやらせるのは非常に難易度が高い。新設するなら、他は廃止して、清掃スタッフを十分に確保しなくてよい状態にするのが良い」と提案しました。
3点とした理由については、「『5点になる伸びしろ』を確保したかったというのが1点目」としたうえで、「最大の課題として、市長と伊藤代表・木村エリアマネージャーの間のコミュニケーションをもっと取ってほしい。長門湯本温泉街がどう市に貢献するのか——正社員数の増加、増収、長門市全体のブランド力向上にどう繋がるのか——を、もっとアピールしながら市と協力してほしい。基金、トイレなどの個別課題が、コミュニケーションを密にすることでスムーズに進むようになってほしい」という、運営構造への核心的な提言を行いました。
〜田中委員要旨〜
田中委員は「まち会社の評価は4点。満点と言いたいところを若干減点した。忍耐の1年だったが、できることをたくさん積み重ね、Withコロナ時代の足場となるような取り組みが見られた。オープンスペースの活用、官民接続の公共空間の活用は特に評価が高い」と述べました。
減点理由として「課題が2点ある」として、「1点目は、まちのビジョン作りと実行計画の必要性。長門湯本がどういうまちを目指しているのか、走りながら考えている部分も大きく、はっきり共有されていない。これを定め共有しないと、旅館の方々にも伝わらない。ロードマップやアクションプランも必要だ。2点目は、持続可能性を持つエリアイメージ形成のための『2階建て構造』。下位にはルーティンとなる伝統的な活動が長期的に変わらず続き、その上に新しい実験的な活動が乗ることで、安定的なイメージとアクティブな印象が両立する。このエリアイメージ形成にも継続的な戦略が必要だ」と指摘しました。
行政の取組については、「基金の取り崩しに評価委員会への事前相談がなかった点は残念。専門委員会の機動性が重要になる」「景観インフラの迅速な改修体制は急務」「公衆トイレの新設は、入札で安価な業者が長門の景観を理解しないまま作るリスクがある。プロポーザル方式など、設計の質を担保する発注の仕組みを検討してほしい」「景観の修景はビフォーアフターの写真共有だけでなく、ガイドラインに基づくプロセスを記録・共有しないと、質が下がっていく」「観光プロモーションは様々な活動の上位概念となるコンセプトの共有を」と、具体的な提言を重ねました。
〜高橋委員要旨〜
高橋委員は「まち会社の評価は5点満点。コロナ禍の大変な時期に、忍耐をしながらも新しいことをしっかり仕掛けられた。特に情報発信・ブランディング観点では『上質』を狙っていくという軸をぶらさず、クオリティの高い情報発信、上質を巻き込むターゲット設定が実施されていた点を高く評価する」と述べました。
「サンロクロクブリュワリーなど新しい場づくりも素晴らしく、こうした場ができればメディアも取り上げたくなる。情報発信と場づくりがうまく噛み合っている。さらに、JR西日本との連携や西鉄バス『おとずれ号』の福岡直行便の実現は、ターゲットとする福岡を狙っていくという戦略を、インフラ企業と組んで形にした非常に評価の高い取り組み」と続けました。
行政に対しては「市・観光協会は、ターゲット設定を担うまち会社をバックアップする立場として、特に予算面でのサポートをしっかり行ってほしい」と述べ、今後への期待として従業員満足度向上への継続的取り組み、生活者関与度のモニタリング、インバウンドブランディングを挙げました。
〜のかた委員要旨〜
のかた委員は「まち会社の評価は5点。修景の届出が24件というのは本当にすごいこと。2018年頃から取材しているが、住民説明会で市役所建設課の方をはじめ、いろんな方が丁寧に説明する姿、デザインチームの丁寧な取り組みを見てきただけに、ここまで来ているのは素直に評価したい」と述べました。
「観光プロモーションも、ゆずきち号の出発式の取材以来素晴らしいと感じている。『おとずれ号』など二次交通の充実は温泉地評価ランキングにもつながる」「うたあかりイベントは、外遊び天国の温泉街をフルに活用し、川・階段・山肌をスクリーンに金子みすゞの世界を表現していて感動した」と評価する一方、「来場者の滞在時間が短いのが気になった。音頭以外の店がほとんど閉まっていて、さーっと来てさーっと帰ってしまう。宿泊しながら楽しんでもらう工夫があるとよい」「大谷山荘の貸出提灯は素晴らしい。提灯を持って温泉街を歩くこと自体がステータスになるような、そんな滞在魅力があれば」と具体的な改善提案も寄せました。
加えて、旅館の廃業について「駅を降りて一番目に入る大きな旅館の廃業は、情報がなかったので驚いた。大きな敷地のこれからは、市長・星野委員はじめ聞いてみたい」、市の取組については「体制強化が示されたが、毎回窓口担当者が変わるのは不思議に感じていた。観光課の人数も増えたと聞いており、公民連携をますます強化してほしい」と述べました。
〜林委員要旨〜
林委員は「私だけ3.5点で大丈夫かと思いつつも、3.5点をつけさせていただいた」と前置きしたうえで、「コロナが世界的に2年続くなか、長門湯本から発信される情報がポジティブなものばかりで元気付けられた。観光プロモーションやPRの観点でも高い評価を得ている素晴らしい点」と評価しました。
そのうえで「業界全体として今の状態を5点とすることはできない。むしろどこに頑張れる余地があるのか、私なりに考えた」として、地元巻き込みの強化を提案。「観光業に関わる人だけでなく、地域全体が盛り上がっているのが長門湯本の本当の強み。地域の人たちの意識がどう変わったのか、どんな活動が増えているのか、来年は数値として見せていってほしい」と述べました。
また、落雷由来の照明70箇所の不具合について「責任の所在は管理側のマネジメントの話で、来た観光客から見れば『手を回す余裕がない街』に映りかねない。原因が何であれ、至急対応すべき」と強い指摘。市の取組については「公衆トイレは『作る』だけが目的でなく、気持ちよく使えることがセット。景観の修景は公共性の高いところへのインパクトを継続的に意識してほしい」と提言しました。
〜中尾委員要旨〜
中尾委員は「総合の評価点は4点。コロナの影響で不確実性が高い状況に対する余白、いわば伸びしろという意味合いで、現状で5点ではなく『さらに5点を目指していただきたい』という期待を込めて4点とした」と述べました。
そのうえで、新しく整備された場のサスティナブルな維持管理という観点で、誰がどのように維持していくかの具体的な検討の必要性などを指摘しました。
〜梅川委員長要旨〜
梅川委員長はこれまでの取組を高く評価したうえで、評価委員会の運営に関して「双方の総合評価としての総括ができるよう、議論の場の機能を高めたい」、各団体に対しては「事業計画の早期明示を」、評価委員会の開催時期については「12月だと来年度予算がすでに固まりかけており、委員会のアドバイスを反映するには遅い。11月など、もう少し前倒しを検討してはどうか」と提案しました。
閉会
以上、約2時間半にわたる議論を経て、第5回「長門湯本温泉みらい振興評価委員会」は終了しました。コロナ禍の出口の見えない状況下で、忍耐を重ねながらも形にしてきた数々の取り組みと、その先に見えてきた次の課題——財源確保、ビジョン共有、地元巻き込み、行政との連携。委員の皆さんからの厳しくも温かい指摘を糧に、長門湯本温泉のまちづくりは着実に次の段階へと歩みを進めていきます。

































































































