長門湯本REPORT:「長門湯本温泉 文化資本会議」が大谷山荘にて開催されました
哲学者山本哲司先生をお迎えした「文化資本会議」第1日目のレポートをお送りします。
2025年5月15日(金)・16日(土)の2日間、哲学者・山本哲士先生を迎えた宿泊型セミナーが大谷山荘で開催されました。
山あいに新緑が広がる長門湯本温泉に、山形・石川・佐賀・福岡・東京——全国各地から30名を超える参加者が集まりました。本稿では、2日間にわたる濃密なセッションの様子をお伝えします。
まちづくりに関わる人、事業を経営する人、研究に携わる人——立場も専門もさまざまな顔ぶれです。開始前の会場には、この場でしか得られない時間への期待が、静かな熱を帯びていました。
テーマは、これからの企業経営やまちづくりに欠かせない視点とされる「文化資本経営」。その理論と実践を、長門湯本温泉という生きた「現場」で掘り下げた2日間のレポートをお届けします。
■ イベント概要
本会議は、文化資本研究の第一人者・山本哲士先生監修のもと、長門湯本温泉エリアの「再生の現場」を、「文化資本経営」という理論フレームに結びつけ、都市開発や事業展開の方向性を参加者と共に考えることを目的に企画されました。
■ ゲスト・話し手・ファシリテーター(敬称略)
―山本哲士
哲学者、政治社会学者、教育学博士
―木村隼斗
長門湯本温泉まち株式会社 エリアマネージャー
―廣瀬理子
JT D-LABディレクター
―大谷和弘
大谷山荘代表取締役社長、長門湯守株式会社共同代表
講演① 長門湯本温泉エリアマネージャー 木村隼斗さん「長門湯本温泉街のエリア資本経営」
最初のセッションは、エリアマネージャーの木村隼斗さんによる講演。2015年に長門市へ着任し2020年から実務を担ってきた木村氏が、「働く(観光産業)」「暮らす(地域生活)」「訪れる(旅人)」の三者をつなぐ「共感型観光」をビジョンに、10年に及んだエリア再生のリアルな歩みを語りました。最後に、「『宿泊者数がピーク時から半減した温泉街を’’再生’’する』という捉え方はしていない。『商品化』という大きな流れの中で実は向き合えていなかった地域の価値そのものにこだわって活動を積み上げている」とこれまでの足跡を表現しました。
温泉街フィールドワーク
木村氏と地域案内人のガイドのもと、参加者はグループに分かれて長門湯本温泉街を実際に歩き、川沿いの広場、竹林の階段、恩湯周辺、川床スペースの運用状況などを現地で体感しました。
参加者からは「ソーシャル(社会的なもの:均質画一管理)とパブリック(公的なもの:自律と成熟)の違いを現地で体感できた」という声が寄せられ、数値やスライドでは伝わらない「場のリアリティ」を肌で感じる時間となりました。実際にそこで働く人たちとの会話を通じて、笑顔や人と人の関係性といった「見えない資産」が場づくりの核になっていることも再確認されました。
講演② 山本哲士「文化資本経営について」
哲学者・山本哲士先生のセッションでは、マルクスの資本論やブルデューの文化資本論を踏まえつつも、その限界を超える「文化資本経営」の理論フレームが提示されました。「物質的最大利益」を計測可能・予測可能の売上主義から規則追求するのを特徴とする「X界(ソーシャル)」から、文化資本を軸に場所固有の価値/資本を生成する「Y界(パブリック)」への転換の必要性が説かれ、それは「製品を作る諸コストを埋め合わせる「必要労働」から利益が生まれるのではなく、資本間の関係を作用させ変換する「剰余ワーク」こそが、場所を生成して、利益を生み出す源泉になる」という開示は、これまでの経営観で見失われていたことを根底から問い直すものでした。「商品販売の交換から利益が出ているのではなく、資本の資本への剰余ワークを動かす文化資本と諸資本の関係作用から利益が出されている実際世界を掴むこと」、そして「実際になされている経済アクションを正鵠に把握するY界の概念世界が、大学言説のX界の概念認識にはないゆえ難解に見えるが、資本から現実=対象界に即した用語=概念図式をしっかり領有すること」が強調され、「若い成功している経営者の方たちはそれをなしている」、山本先生より静かに語られました。
場所資本と文化資本を核に、従来の売上主義に依存しない資本創出の枠組みを丁寧に解き明かす先生の言葉に参加者は熱心に聞き入り、真剣に書き留めていました。
パネルディスカッション 山本哲士 × 木村隼斗 ファシリテーター:廣瀬理子氏(JT D-LAB ディレクター)
それぞれのセッションを経て、参加者同士でも議論が盛り上がりを見せたため、山本先生と木村さんの対話セッションの予定は参加者全員含めたグループディスカッションに変更されました。
参加者からはXとY界の共存可能性や、公共の「パブリック」への再定義、都市と地方の資本などについて、様々な角度からの質問が飛び交いました。山本先生と木村さんは長門湯本温泉の実践の事例も交えて丁寧に質問に回答し、参加者の思考や理解もさらに深まりました。
山本先生からは「10年に及ぶ長門湯本温泉の取組を通して、社会設計による商品世界からパブリックな場所づくりに転換した」という評価がなされました
長門湯本温泉文化本会議の初日は、「長門湯本温泉の実践」と「文化資本の理論」が出会う濃密な一日となりました。
2日目は、大谷氏による恩湯再生に向けた取り組みの話、山本先生による恩湯の歴史と文化資本の深掘り講義、そして企業による文化資本経営の活用へと続きます。

































































































