長門湯本NEWS:うつわの秋2025~特別企画「陶の花」開催レポート~
長門湯本温泉で毎秋開催される「うつわの秋」。
6年目を迎えた2025年は、特別企画として10/11~13日に「陶の花」が開催されました。
会場となった三ノ瀬公会堂は、古くから祭りの練習や集会など、地域の寄り合いに使われてきた場所です。
年月を経た木の温もりが残り、赤みを帯びた天井や梁がやさしい光を反射していました。
訪れた人は皆、その空気の静けさに足を止めます。
聞こえるのは外からの風と、鳥や虫の声だけ。時間の流れがゆるやかにほどけていくような空間の中で、花と器が静かに呼応していました。
今回の企画で花を手がけたのは、flower artist/花司の田中孝幸さんです。
「花は生きものだから、風土に触れずにはいけない」と田中さんは語ります。展示の半年前から三ノ瀬を訪ね、山を歩き、土地の人と語らいながら、そこで育った草木を少しずつ分けてもらいました。展示に使われた植物はすべて地元で採取されたものです。少し枯れかけた葉も、土の匂いも、そのままの姿でいけられました。
花を迎えるのは、深川萩の作家たちが手がけた器です。萩焼は、かつて防府から献上土を運んでつくられてきましたが、日常の器は地元の土から生まれてきました。作家たちは今も、三ノ瀬の山から土を掘り、釉薬を調合し、火を焚いています。
そして田中さんは、この展示を振り返りながらこう語りました。
「器は土だから、元に戻している感覚があった」と。
同じ土地で採れた花と土が、再び一つの空間に並ぶ。花が陶に宿り、陶が花の一部になる――「陶の花」は、そんな風土の循環を体現する展示となりました。
この企画を特別なものにしたのは、制作までの時間のかけ方でした。
田中さんは「時間をかけられる状況があるかどうかが、自分にとって大切」と語ります。萩の作家たちとのやりとりはメールではなく手紙で行われました。田中さんが画用紙に書いた手紙を送り、作家からは折り畳まれた書状のような返事が届いたそうです。企画に向けたやりとりの中で、少しずつ相手への理解が深まり、信頼が生まれていきました。
田中さんの花は、その日を境に枯れていきます。対して、萩焼の器は、土と火によって形をとどめ、長く残ります。
消えていくものと、残り続けるもの。
同じ自然素材でありながら、時間の流れの異なるふたつの存在が、今回の展示で静かに向かい合いました。

































































































