長門湯本REPORT:第1回長門湯本温泉みらい振興評価委員会が開催されました
この回の要点 | 第1回(2020年6月30日)
整備完了後の長門湯本温泉を第三者の目で評価する「みらい振興評価委員会」が発足した初回。
- 観光地経営の6指標を策定:温泉地ランキング/RevPAR/新規投資/生活者関与度/従業員満足度/メディア露出換算額
- 委員7名(梅川・高橋・田中・中尾・のかた・林・星野)はオンライン参加
結論:街並み整備の段階から「運営とアップデート」の段階へ。第三者評価を組み込んだ体制が始動。
2020年6月30日(火)、第1回目となる「長門湯本温泉みらい振興評価委員会」が開催されました。長門湯本温泉のリニューアル整備完了から約3ヶ月、新型コロナウイルス感染症の影響が続くなかで、温泉街の持続的な観光まちづくりを外部視点で検証する委員会が、歴史的なスタートを切った日となりました。
これは、外部の専門家等が長門湯本温泉の観光まちづくりを検証し、その知見をまちの未来に生かすために、長門市長門湯本温泉みらい振興基金条例に基づき、設置されたものです。
■ <長門湯本温泉みらい振興評価委員会>
長門市長門湯本温泉みらい振興基金条例(令和元年12月26日条例第16号)に基づき設置され、第三者評価とするため外部の有識者で構成。長門湯本温泉の持続的な観光まちづくりを進めるため、本基金の使途の透明性の確保および運用の適正化を狙いとする。
長門市およびエリアマネジメント法人(長門湯本温泉まち株式会社)が本基金を財源として実施する事業を評価するとともに、持続的な観光まちづくりにつながる事業に要する本基金の処分について、市長に意見を述べる。
※この会議は原則公開となっており、会議の模様はyoutubeにて全編が公開されています。
評価委員会には以下のメンバーが参加しました。
| 氏名 | 所属・分野 | 出欠 |
|---|---|---|
| 梅川 智也 | 國學院大学/学識経験者 | オンライン |
| 高橋 俊宏 | 株式会社ディスカバージャパン/メディア | オンライン |
| 田中 智之 | 熊本大学大学院/建築・空間デザイン | オンライン |
| 中尾 大介 | 株式会社WAKU WAKUやまのうち/まちづくり・金融 | オンライン |
| のかた あきこ | 旅ジャーナリスト | オンライン |
| 林 千晶 | 株式会社ロフトワーク/コミュニティデザイン | オンライン |
| 星野 佳路 | 星野リゾート/観光業 | オンライン |
| 伊藤 就一 | 長門湯本温泉まち株式会社 代表取締役 | 出席 |
| 木村 隼斗 | 長門湯本温泉まち株式会社 エリアマネージャー | 出席 |
| 大谷 和弘 | 長門湯守株式会社 共同代表 | 出席 |
| 泉 英明 | 有限会社ハートビートプラン 代表取締役 | 出席 |
| 江原 達也 | 長門市長 | 出席 |
| 田村 富昭 | 長門市 経済観光部 | 出席 |
審議・検討事項
(1)長門湯本温泉みらい振興評価委員会の進め方について
(2)長門湯本温泉観光まちづくりの推進と評価指標について
開会
まず冒頭に、江原達也 長門市市長より開会の挨拶が行われました。
〜市長 挨拶要旨〜
長門湯本温泉では、この3月にハード整備が完了し、「星野リゾート 界 長門」の開業、「立ち寄り湯 恩湯」の再建、地域による観光地経営の推進主体「長門湯本温泉まち株式会社」の設立などが続きましたが、世界的な新型コロナウィルス感染症の拡大により、深刻な影響を受けているところです。厳しい状況が続きますが、この週末にはたくさんの人たちが温泉街を訪れる様子も伺えました。これまでのまちづくりの成果を生かして、公民が連携し、温泉街の魅力を持続的に向上させるためにも、皆様の専門的な知見のもと、様々な観点からのご意見をお願いいたします。
委員長選出
事務局案として、梅川智也委員を委員長に選出することが提案され、全委員一致で承認されました。梅川委員長は就任にあたり、自己紹介を行いました。
〜梅川委員長発言要旨〜
「現在は國學院大学に在籍しているが、この3月まで立教大学の観光学部にいた。その前は公益財団法人 日本交通公社という、旅行観光に関する専門調査機関で30数年、観光まちづくりの現場で携わってきた」「ここ数年は、特に温泉地について、旅館だけが栄えるのではなく温泉街全体を魅力あるものにする視点——個別最適より全体最適——という考え方で、温泉街づくり研究会を続けてきた。そのご縁で今回参画させていただいた」と経歴を共有。
「最初に申し上げておきますが、私はおそらく一番現地事情に疎い人間だと思う。そんな人間が委員長を仰せつかっていいのか恐縮しているが、皆様方の足を引っ張らないように努めていく」と謙虚に述べ、委員長就任の挨拶としました。
(1)委員会の進め方について
長門市経済観光部 田村理事より、評価委員会の進め方について説明がありました。
〜報告要旨〜
・根拠規則
「長門湯本温泉未来振興評価委員会規則」を長門市にて制定。この規則に基づいて意見を述べる委員会として機能します。
・議論対象
3月に開催された第10回 長門湯本温泉観光まちづくり推進会議で示された方針に基づき、以下の事項について議論することが共有されました。
【 議論対象】
1 | エリアマネジメント会社(長門湯本温泉まち株式会社)が行う温泉街の地域価値を高める公益性の高い事業
2 | 街並みの景観、施設維持管理・整備に関する事項
3 | 恩湯事業の運営
4 | 長門湯本温泉駐車場(指定管理)の運営
5 | その他、温泉街の発展に必要な事項
・開催頻度・公開原則
委員会は通常年2回程度(春・冬)の頻度で開催。会議は原則として公開、議事もYouTubeでライブ配信。ただし、長門湯守の恩湯事業など個別の経営事項に関しては非公開で開催する場合がある旨が共有されました。
(2)観光地経営の推進と6つの評価指標について
長門湯本温泉観光まちづくりの推進状況と、観光地経営を評価するための指標について、事務局およびデザイン会議の泉英明氏より説明がありました。
〜要旨〜
長門湯本温泉のリニューアルプロジェクト(2016年〜2020年)が完了したことを受けて、これからは「街並み整備の段階」から「運営とアップデートの段階」へと移行していくことが共有されました。
エリアマネジメントを担う長門湯本温泉まち株式会社の活動を評価し、温泉街の持続的発展を測るための指標として、以下の6つのKPIが策定されました。
| 指標 | 内容
1 | 温泉地ランキング | 観光経済新聞「人気温泉地ランキング」のトップ10入りを目標。類似温泉街のみを抽出したランキングで評価
2 | RevPAR(Revenue Per Available Room) | 客室単価×稼働率。宿泊量ではなく「収益の質」を評価
3 | 新規投資額・件数 | 民間の新規投資の活発さを測る指標。投資の量と質の両面
4 | 生活者関与度 | 地元住民が温泉街の活動にどれだけ関与・満足しているか
5 | 従業員満足度 | 温泉街で働く人々が誇りを持って働けているかをアンケートで測定
6 | メディア露出換算額 | 広告ではなく記事・番組として取り上げられた量と質。広告換算額として可視化
「観光客の数だけを追うのではなく、温泉街全体の収益性、関わる人々の満足度、そして長期的なブランド価値構築につながる質的指標で評価する」という、観光地経営の本質に踏み込んだ評価フレームが、この第1回会議で確立されました。
■ 木村エリアマネージャー 報告:コロナ禍での取り組みと「オソト天国」コンセプト
長門湯本温泉まち株式会社 木村隼斗エリアマネージャーより、コロナ禍のもとでのまち会社の取り組みと、これからの方針が報告されました。
〜要旨〜
足元の状況については「山口県内・近隣のお客様が中心。団体は大きく減少しているが、5月後半から徐々に戻り、そぞろ歩きを楽しまれる姿も少しずつ見られるようになってきた」と総括。旅館組合と連携した議論のなかで、コロナへの対応を「対抗時期 → 伴走時期 → 解放期」の3フェーズで捉え、段階的に取り組む方針が示されました。
対抗時期には、エリア横断での発信、公共空間を活かしたテイクアウト強化、従業員向けに地元店の弁当を安く提供する「恩湯ご飯」、長門湯本を学ぶオンライン講習(旅館従業員20〜30名参加)など、休業期間を逆手にとった取り組みを展開。
伴走時期に向けては、「需要の不安定さに耐える強い構造」「適切な楽しみ方の提示」「季節ごとの戦略」の3つを柱に据えました。象徴的な施策として、恩湯での混雑センサーによるリアルタイム発信(公衆浴場では珍しい取組)と、新しい生活様式にぴったりの「オソト天国」コンセプトを掲げ、屋外で楽しむ温泉街像を楽しく伝えていく方針が示されました。季節別では、夏=川遊びグッズ、秋=文化体験(萩焼深川・川との暮らし)、冬=明かりの魅力で閑散期対策を進めます。
最後に「旅の意味・役割を改めて考えざるを得ない時間があった。地域固有の価値や未来に発信したい価値を体験でき、出会いが他者・社会の多様性理解につながる旅の本質的な役割は失われない。働く人も暮らす人も旅する人も、同じ価値観で過ごせる温泉街を目指したい」と、長期的な抱負を共有しました。
このあと、各委員からは、提案された6つのKPI、および委員会の運営について、活発な意見交換が行われました。
〜星野委員要旨〜
星野委員は、長門湯本温泉のこれまでの取組について「日本の温泉地のなかで、こうしたKPIを設定して全体最適に取り組んでいるケースは非常に珍しい」と評価。「リゾート事業者の立場として、星野リゾートも今のかたちになるまで29年かかった。観光地経営はマラソンであって短距離走ではない。最初から目標を高くしすぎず、フレームワークをきっちり作って毎年改善していくことが重要」と長期視点での歩みの重要性を強調しました。
特にRevPARの導入について、「日本の温泉地でRevPARをきちんと評価指標に組み込んでいる地域はほとんどない。RevPARの考え方を導入するだけで、正しい経営判断ができるようになる。長門湯本のこの第1歩は、全国の温泉地のモデルケースになりうる」と高い評価を寄せました。
〜田中委員要旨〜
建築・空間デザインの専門家として、景観インフラの維持管理について「リニューアル整備が完了したばかりの段階だが、これからの10年・20年を見据えたファシリティ・マネジメントの視点が必要になる。日々のメンテナンス、軽微な補修、定期的な点検、そして10年・20年単位での大規模修繕——これらを計画的に組み立てていくことで、せっかくの整備の質を持続可能なものにできる」という観点を共有しました。
また、評価指標について「数値化できる指標と数値化しにくい指標がある。生活者関与度・従業員満足度は数値化が難しいが、本質的な指標。アンケートや現地ヒアリングを通じて、定性的にも積み重ねていくべき」と提言しました。
〜高橋委員要旨〜
メディアの立場から、メディア露出換算額の指標について深く言及。「ただ露出が多ければ良いというわけではない。長門湯本がどう取り上げられたいのか、その理想に合った取り上げ方をしてくれているメディアをきちんと評価すべき」「価値あるかたちで取り上げられればイメージアップだが、本質が伝わらない取り上げ方は逆にダメージにもなる」。
「Discover Japan としても、長門湯本のこの取組には強い関心を持っている。良質なメディア露出を実現するためには、メディア側との関係性を継続的に深め、長門湯本のストーリーを丁寧に伝えていくことが重要」と、編集者の立場から具体的な戦略観点を共有しました。
〜のかた委員要旨〜
「旅ジャーナリストの立場から、温泉街全体を取材する機会は実は少ない。旅館単体・宿単体での取材が中心になりがち。長門湯本のように『温泉街全体を1つのデスティネーションとして売り込む』という発想は、これからの観光地経営のモデルとして重要」と評価。「私自身も、長門湯本の取り組みを長期的に取材し、外部視点で発信していきたい」との意欲が共有されました。
〜林委員要旨〜
「観光業に関わる人だけでなく、地域全体が盛り上がっているかどうかが長門湯本のような場所の本当の強み。地域の人々の意識がどう変わったのか、どんな活動が増えているのかを、これからの評価で見ていきたい」として、生活者関与度の指標について重要な視点を提起。
「住民の関与の質をどう測るかは難しい問題だが、参加型イベントの数だけでなく、住民が自発的に始めた小さな取組の積み重ねや、温泉街の話を住民が語る頻度のような、定性的な兆候も大事にしたい」と提案しました。
〜中尾委員要旨〜
「長野県でも温泉地の取組に関わっているが、長門湯本がやろうとしている1から6までのモニタリング評価を、まともにやっている温泉地は他に1つもない。長門湯本の指標体系は、観光地経営の質を一気に引き上げるポテンシャルがある」と評価。
「ただ、評価する側として一番気にしているのは、点数が低いことで関係者の熱量が落ちて持続できないということ。これは本末転倒なので、関係者のマインドが上がっていくような評価のあり方を意識したい。評価が現場の士気を高める方向に作用するよう、運用面の工夫も大事」と、評価運用への配慮を提言しました。
〜梅川委員長 発言要旨〜
「全員のご意見を伺って改めて感じるのは、長門湯本がこの第1回でやろうとしていることは、日本の温泉地・観光地経営の歴史において、非常に重要な一歩だということ。観光客数だけを追うのではなく、収益の質、関わる人々の満足度、メディアでのブランド価値——これらを統合的に評価する仕組みは、温泉街づくり研究会でも私が継続的に主張してきたことだが、それを実際に制度化して動かしている地域は本当に少ない」。
「観光地経営はマラソン——星野委員のおっしゃる通り。これから何年もかけて、毎年少しずつ改善しながら、長門湯本の歩みを丁寧に積み重ねていく。今日この日が、その第1歩として記録される」と、第1回評価委員会の歴史的意義を語りました。
長門湯本温泉デザイン会議の司令塔として参画している泉英明氏より、これまでのプロジェクトの経緯と今後の方向性について説明がありました。
〜デザイン会議 泉英明氏 発言要旨〜
「2016年から始まった長門湯本温泉のリニューアルプロジェクトは、マスタープラン・デザイン会議・エリアマネジメント会社(まち会社)という3層構造で進めてきた。マスタープランで方向を定め、デザイン会議で空間・体験のクオリティを担保し、まち会社で実装と運営を行う」「この3層構造が機能してきたのは、行政・民間・専門家の三者が継続的に対話を重ねてきたから」。
「評価委員会が新たに加わることで、第三者視点での検証が制度として組み込まれる。これによって、長門湯本のまちづくりはより堅牢な仕組みになる」と、評価委員会設置の意義を強調しました。
「今後の評価委員会では、6つのKPIを各回の議論の軸としつつ、その時々の重要テーマ——例えば、コロナ禍での観光戦略、新規投資の呼び込み、景観インフラの維持管理など——についても、機動的に議論していけたら」と運用方針も共有されました。
閉会
第1回 長門湯本温泉みらい振興評価委員会は、約2時間半にわたる議論を経て終了しました。
この日に確立されたこと:
・長門湯本温泉みらい振興評価委員会の発足:年2回開催、原則公開
・梅川智也委員長の就任
・6つの評価指標(KPI)の策定:温泉地ランキング、RevPAR、新規投資、生活者関与度、従業員満足度、メディア露出換算額
・観光地経営の評価フレームの確立:観光客数だけでなく、収益の質、関わる人々の満足度、ブランド価値を統合的に評価
・3層構造(マスタープラン・デザイン会議・まち会社)に第三者評価機関を加えた4層体制の確立
新型コロナウイルス感染症の影響により、深刻な状況下でのスタートとなった第1回評価委員会。「観光地経営はマラソン」という共通認識のもと、長門湯本温泉のまちづくりは、これから10年・20年と続いていく長い道のりの第1歩を踏み出しました。「整備が終わってからが本番」——委員会の発足によって、運営フェーズに移行した長門湯本温泉のまちづくりは、第三者の評価と提言を支えに、確かな仕組みのなかで歩みを進めていきます。

































































































