長門湯本REPORT:第8回長門湯本温泉みらい振興評価委員会が開催されました
2023年11月7日(火)、第8回目となる「長門湯本温泉みらい振興評価委員会」が開催されました。10月・11月のトップシーズンを迎え、温泉街に多くの観光客が訪れているなかでの開催となりました。
これは、外部の専門家等が長門湯本温泉の観光まちづくりを検証し、その知見をまちの未来に生かすために、長門市長門湯本温泉みらい振興基金条例に基づき、年に2回開催されるものです。
■ <長門湯本温泉みらい振興評価委員会>
長門市長門湯本温泉みらい振興基金条例(令和元年12月26日条例第16号)に基づき設置され、第三者評価とするため外部の有識者で構成。長門湯本温泉の持続的な観光まちづくりを進めるため、本基金の使途の透明性の確保および運用の適正化を狙いとする。
長門市およびエリアマネジメント法人(長門湯本温泉まち株式会社)が本基金を財源として実施する事業を評価するとともに、持続的な観光まちづくりにつながる事業に要する本基金の処分について、市長に意見を述べる。
※この会議は原則公開となっており、会議の模様はyoutubeにて全編が公開されています。
評価委員会には以下のメンバーが参加しました。
| 氏名 | 所属・分野 |
長門湯本温泉みらい振興評価委員会
| 梅川 智也 | 國學院大学/学識経験者 |
| 高橋 俊宏 | 株式会社ディスカバージャパン/メディア |
| 田中 智之 | 熊本大学大学院/建築・空間デザイン |
中尾 大介 | 長野県立大学大学院研究員/まちづくり・金融 |
| のかたあきこ | 旅ジャーナリスト |
| 林 千晶 | 株式会社Q0|コミュニティデザイン |
| 星野 佳路 | 星野リゾート/観光業 |
民事業者
| 長門湯本温泉まち株式会社 代表取締役 伊藤 就一 | 民間事業者 |
| 長門湯本温泉まち株式会社 エリアマネージャー 木村 隼斗 | 民間事業者 |
| 長門湯守株式会社 共同代表 大谷 和弘 | 民間事業者 |
事務局
| 長門市長 江原 達也 |
審議・検討事項
(1)長門市による観光振興の取り組み及び2024年度事業計画案について
(2)長門湯本温泉まち株式会社・エリアマネジメント事業の取組状況及び今後の方針について
開会
まず冒頭に、江原達也 長門市市長より開会の挨拶が行われました。
(1)長門市による観光振興の取り組み及び2024年度事業計画案について
長門市観光政策課 吉村課長より、長門市の取り組みと2024年度事業計画案について説明がありました。
〜報告要旨〜
景観インフラの合同年次点検と維持管理
9月25日に長門市長や田中専門委員長らの同行のもと実施された合同年次点検を踏まえ、経年劣化への対策と方針が共有されました。
竹林の生育改善: 生育環境が芳しくないため樹木医へ相談中。その判断をもとに令和6年度中に対策を講じる。
サイン・灯具・木部の劣化: サインの汚れ等は今年度予算で対応。紫外線による照明灯具の塗装劣化やベンチのけば立ち等、市と地域が連携して随時補修を進める。
沈下橋の修繕: 県・地元と協議の上、昨年度とは異なる工法で修繕予定。
管理方針: 10年に一度の大規模補修を見据え、早期の軽微な補修・日常メンテナンスを組み合わせることで将来の改修費用を軽減する。日常管理はオソト活用協議会や自治会で記録化を図る。
財政状況(入湯税の見込みと基金)
2023年度の入湯税収は年間2,772万円を見込むが、エリアマネジメント事業費等の支出(計2,890万円)に対して約118万円の財源不足が生じる予測であり、基金への積み上げが難しい厳しい現状が共有された。中長期的な基金の健全性を担保するため、新たな財源確保策の検討を継続することとしました。
照明灯具の落雷改修工事
落雷被害による不具合改修(計81箇所・100個)および再発防止用の雷サージ対策工事は、3期に分けて今年度中にすべて完了する見込みとの見解を報告しました。
ソフト面の取り組み実績
高付加価値化: 観光庁事業の採択を受け、六角堂・曲線閣の改修やまち会社のDXを推進。
二次交通対策: 豪雨によるJR美祢線不通への対応として新山口駅〜長門市間の直行バスを4往復に増便。また、市内タクシー周遊プラン(センザキッチン、元乃隅神社、長門湯本温泉、俵山温泉等を巡るルート)を今年度中に運行開始予定。
インバウンド: 観光庁の補助を活用した台湾向けSNS発信や台湾商談会への参加を実施。
2024年度 事業計画案の方向性
ハード面: 景観インフラの適切な維持管理に加え、県施設である河川公園の足湯等の管理運営について年内に検討会合を立ち上げ、活用や要望を検討する。
ソフト面: 鉄道の運行再開見通しが立たない中のアクセス改善(二次交通対策)の継続、福岡方面での観光宣伝、大阪・関西万博への対応、閑散期対策支援を推進。
情報発信の枠組み刷新: 市、観光コンベンション協会、まち会社、各エリアが個別に実施していた発信を共有・一元化。企画立案の段階から素材やメディア、時期を統一的に検討する新しい効果的な発信体制へと移行する。
(2)長門湯本温泉まち株式会社・エリアマネジメント事業の取組状況及び今後の方針について
長門湯本温泉まち株式会社 木村エリアマネージャーより、エリアマネジメント事業の取組状況と、これからの1年半の方針について報告がありました。
〜要旨〜
インバウンドの中期戦略と今年度の取り組み
足元のインバウンド対応において、長期的な指標(予約数・リピーター数)の前に、短期的な成果(サイトアクセスやメディア掲載)や中期的な成果(ブランド定着の体感)を段階的に確認していく評価枠組みが共有されました。具体的な今年度の取り組みとして以下が紹介されました。
長門温泉コンセプトの一言表現: 温泉版のコンセプトを「伊勢ジャパン」と進め、長門湯本らしさを言語化する。
資源の再評価: 策定したコンセプトをもとに、既存の地域資源を再見直しする。
予約サイトとの連動: 地域の予約決済システムを組み込み、受け入れ環境を整備する。
海外メディア招致: オーストラリアのメディアを招致し、ターゲット市場へ向けた誘導記事の露出を図る。
「プロジェクトモード」への再点火
2016〜2018年の「インフラ整備期」、2020〜2022年のコロナ禍における「マネジメント(維持管理)フェーズ」を経て、これから1年半は改めて攻めの姿勢をとる「プロジェクトモード」へ移行することが宣言されました。
地域に新たな民間投資を呼び込むフェーズへの転換を目指し、①トークイベントやプロジェクト発信の強化、②福岡からのドライブ客を想定したルート上事業者との連携、③新規プレイヤーの接点となる物件への働きかけ、④関係人口を広げる仕組みづくり、⑤小規模イベントの継続的な積み上げ、といった切り口から、小さくとも安定したアクションを継続していくとの考えです。
エリアマネジメントの財源の現実と3カ年計画(2024〜2026年)
木村エリアマネージャーより、財源構造に関する課題が共有された。2023年度の事業費は約5,200万円(内訳:入湯税約3,000万円、変動分としての補助金・駐車場収入)であるが、本来の企画開発を伴う理想的な事業展開には約6,000万円が必要との試算が示されました。
これまで依存傾向にあった手厚い国等の補助金が減少していくことを見据え、外部補助に頼りすぎない自走型の構造へ移行するため、以下の3カ年財源計画です。
実質的な費用圧縮の推進。
収益事業および駐車場収入の拡大。
2025年頃をめどに、補助金への依存度を半分程度に抑制。
安定継続が不可欠な事業は、補助金に頼らない仕組みへ移行。
年間5,000万円程度の事業費の安定確保を目指す。
コラボ事例:山崎製パンとの連携
山崎製パン株式会社の「西日本温泉コラボランチパック」企画において、下呂温泉や有馬温泉など西日本の著名な9つの温泉地の一つとして長門湯本温泉が選出された。「長門焼き鳥味」として全国流通する身近な商品に掲載されることで、高いブランディング効果が得られることが共有されました。
■ 長門湯守株式会社の取組について
長門湯守 大谷共同代表より、半年間の取組が報告されました。
〜要旨〜
最大のトピックは、150年ぶりに復活させた「新春献湯式」。明治の廃仏毀釈で住職が長門を離れ、名古屋の豊川稲荷に身を寄せたという経緯を辿るかたちで、昨年12月に伊藤就一代表とともに豊川を訪問。前住職が長門の地を二度と踏まぬまま、玉林寺で住吉神社の神様を奉じていたことが発覚し、その魂を新春献湯式とともに長門へ迎え戻すというストーリーが立ち上がりました。「途切れていた技を単発的に起こすのではなく、地域の物語として繋がっていく取組」として位置づけられ、地域コミュニケーション(街中事務局発行の冊子)でも記事化されました。
地元教育では、向陽小学校での湯道授業を継続。「誰のおかげで温泉に入れますか」の問いに、湯本の子供たちが「神様」「住職」と答えるエピソードが象徴的に共有され、「義務教育のなかで、地域でしか学べないこと・地域で恵まれていることを入れていく重要性」が改めて語られました。今年10月以降も継続実施予定です。
そして、新たな取組として「まちの番台」が紹介されました。本来は飲食店オーナーが見つかるまでの仮拠点ですが、住民と旅人が「温かい感情」を交換できる場として、キュレーション機能を強化していく方針。「住民が世話をする姿を旅人が見て、ここは本物の場所だなと感じる——その情緒の交換をデザインしていく」という、これまでにない観光案内のあり方が示されました。
■ 委員からの議論
各委員から、今回の議論への評価と提言が共有されました。
〜星野委員要旨〜
星野委員は、PR予算と平日対策、DX推進の3点で踏み込んだ発言を行いました。
PR予算については、木村EMの予算案で情報発信予算が圧縮された点に対し「これは本来マイナス。予算がなくてもSNSを駆使すれば総量は維持できる。離陸に必要なパワーは巡航時より大きい——情報発信の総量は下げてはいけない時期だ」と強く指摘。あわせて補助金依存からの脱却の難しさにも触れ、「オフシーズン対策のような立ち上がり期の取組には、当面の継続的サポートが必要」と運用上の現実も整理しました。
平日対策については「オソト天国が『オソトウィークエンド天国』にならないように、平日も店が開いている状態をどう作るかが生命線。我々の界 長門でも『そぞろ歩きが魅力』と発信して来ていただいた方が、平日に来ると何もなかったとのコメントを受けている」と、現場の体感を共有。
DX推進では「スマホで探してスマホで予約する時代。宿だけでなく飲食店やアクティビティの予約・決済を地域一括で行えるシステムを急ぐべき。海外OTA経由ではなく地域で手数料を取れる仕組みづくりが鍵。アルツ磐梯でも旅行業地域限定免許でこれを実現している」と具体例を提示しました。
〜田中委員要旨〜
田中委員からは2点の方向で発言がありました。第一に、景観インフラの点検報告として、竹林の階段の竹の生育不良、サインの剥がれや褪色(玉砂利による解決策の提案)、照明灯具の塗装の紫外線劣化(焦げと褪色の混在)、ベンチ・テーブル・パーゴラの木部劣化を指摘。「サインがピシッとしないと、全体的に質が下がった印象を与える」として、早期対応を求めました。
第二に、木村EMの「伊勢ジャパン」コンセプト言語化について「子供でもわかる絵本のようなコンセプトブックを一度作るのが良い。地域や旅館で働く方も含めて、どこに行っても同じ絵本が置いてあるような状態が、ビジョン共有として効く」と賛同。あわせて、国道316号から見た駐車場入り口の物理的な情報発信(食・温泉・オソト天国のピクトグラム)の重要性も提起されました。
〜高橋委員要旨〜
高橋委員(Discover Japan)は、メディア戦略の本質を語りました。「年間特集を1年前に決めて計画的に進めていくのと同じで、湯本としても年間の情報発信計画を立てたうえで予算を配分すべき。情報発信の核は『何を伝えるか』というコンテンツであり、大谷さんの新春献湯式の150年ぶりの復活のような話こそが、本質的なストーリー。インフォメーションではなくストーリーで伝えることが、知的好奇心の高いお客様を呼び込むカギ」。
役割分担についても踏み込んだ提言を行いました。「市・観光コンベンション協会・まち会社の3者が同じような情報発信をバラバラにやるのは無駄。PR会議のような連携の場で、戦略的・体系的に整理を」。あわせて、温泉の根源にある住吉神社・大寧寺の清掃(草抜き等)を地元と協力して継続することの意義にも触れ、「ハードを大きくいじらなくても、丁寧なお手入れが観光の本質を支える」と語りました。
〜のかた委員要旨〜
のかた委員からは、グローバル化と地元巻き込みの両面で提言がありました。「長門湯本のグローバル化には、海外向けYouTube発信、温泉文化の世界遺産化、入れ墨ルールの議論など、世界基準でのアプローチが必要。実際に海外の人を招くことで、彼ら自身が発信者になる好循環が生まれる」と、海外招致の戦略性を強調。
地元の旅館経営者については「表に出ていない旅館の人たちと話すと、『参加したいがやり方がわからない』『反対ではなく気になっている』という声が多い。見えなくなっていないか。反対意見も関心の表れ。もう一度地元と話し直して、参加してもらえるよう働きかけるべき」と、ワークショップの内向き化への警鐘を鳴らしました。
新規スタッフ(白石千里さんや旅館組合の瀧口さん)が頑張っている充実感も評価し、「キラキラしている。こうした人たちを表に出して発信してほしい」と提案。また、西鉄バスの利用者数が前回1名から今回8名(全員20代男女の外歩き目当て)に増えた取材実感も共有されました。
〜林委員要旨〜
林委員からは、グローバル視点での3つの提言が共有されました。第一に、萩焼の深川窯について「燕三条の『工場の祭典』をモデルに、年に1回程度全ての窯を開放して練り歩くイベントを定例化すべき。今のままだと観光客が来ても中身がわからない」と地域資源のオープン化を提案。
第二に、グローバルスタンダードへの挑戦として「インバウンド誘致のために、入れ墨があっても入れる温泉という議論や、SBNR(宗教的ではないがスピリチュアルな層)をターゲットにした戦略を、長門湯本こそ先行すべき」と、欧米層の取り込みに向けた具体的視点を共有しました。
第三に、「インフラ投資の後に民間が続くという流れは確実にある。これからの1年半は、まさにその次の時代を作る重要な時期」と、木村EMが宣言した「プロジェクトモード再点火」の方針を支持しました。
〜中尾委員要旨〜
中尾委員(まちづくり・金融)は、インバウンドの滞在環境について「インバウンドの方は休憩するのが大好き。長門湯本にはさらに多くのベンチがあってもいい」と具体的な提案。あわせて、新たな民間プレイヤーであるStapleとの関係(SOIL長門湯本温泉の開業準備)について、「金融の立場からもしっかり伴走し、事業者がやりやすい仕組みを作ることが大切」と支援姿勢を示しました。
情報発信では「動画やスマホは見ない層もいる。耳を使った音声コンテンツでガイドする戦略的な発信も考えておくべき」と、DX時代の多様なチャネル設計を提起しました。
〜梅川委員長 発言要旨〜
梅川委員長は3つの方向で総括しました。第一に、評価方法の変更について「来年春の評価は、3カ年事業計画に対する達成度ベースで評価するのが正しいあり方。財源計画と並行して事業計画を作ってほしい」と、評価フレームの転換を提案。
第二に、組織のDMO化について「まち会社がやっていることは、国が求めているDMO(観光地域づくり法人)の本質的機能そのもの。DMC(マーケティング)の枠を超えて、登録DMOへの申請も視野に入れるべき。市全体のDMOと地域DMOが両立しても良い」と、組織の位置づけ整理を提起。観光コンベンション協会との役割の重複についても、整理が必要との認識が示されました。
第三に、財源の多様化について、入湯税の傾斜配分(例:宿泊単価5万円以下は100円、5万円以上は350円のような階層的設定)の検討、宿泊税の議論など、「コロナが明けた今、いろんな展開に向けて持続可能な財源確保の議論を始めるタイミング」と方向性を示しました。
閉会
以上、約1時間半にわたる議論を経て、第8回「長門湯本温泉みらい振興評価委員会」は終了しました。コロナ禍後のマネジメントフェーズから、新たな投資と動きを生み出す「プロジェクトモード」への再点火宣言。そして、補助金に頼り過ぎない自走型の事業構造を3年スパンで目指す財源計画。次の1年半が、これまでの積み上げを次の段階に展開していく勝負の時間となりそうです。長門湯本温泉のまちづくりは、第二章へと歩みを進めていきます。

































































































