長門湯本REPORT:「長門湯本温泉 文化資本会議」2日目レポート
「長門湯本温泉 文化資本会議」の初日に続き、2日目となる5月16日は、元湯「恩湯」の再生に携わってきた大谷和弘さんと、哲学者の山本哲士先生にご登壇いただき、「場所資本経営」と「文化資本経営」をテーマに、恩湯の実践と歴史の深掘りが行われました。
前半のセッションでは、大谷さんから恩湯が公設公営から民設民営へと切り替わり、新・恩湯として建て替えられるまでの歩みが語られました。単に温浴事業を運営するということでなく、行政とともに「地域の経営課題を解決する」という強い意志のもと、このエリアで暮らす人々の喜びに即した生活文化を創造することが目指されました。象徴的なのは、「そのままこそ贅沢」というコンセプトです。空気に触れずに注がれる「足元湧出温泉」が発見され、毎分約130リットル湧き出る39度の源泉に合わせた浴槽を設計し、まさに、「生まれたての温泉」を楽しめるようにデザインされました。一時的には、行政のお荷物施設として扱われていた温浴施設、しかしそこに流れていた温泉は、「偉大なる自然資本」であったことが紹介されました。
続いて、大寧寺と住吉神社をめぐる神仏習合の物語についてのお話がありました。
瑞松庵4世・仲翁守邦禅師によって室町期に策定された祝融山并払子之縁起の「住吉物語」、そして、大寧寺4世・竹居正猷禅師による「住吉神温泉発見縁起譚」の物語と、その繋がりを遡及的に逆立読解することで、恩湯が大寧寺の所領となった、その物語の真意に迫り、この場所に潜む「神仏習合の歴史資本」が明らかになりました。住吉の神様が温泉を湧かしてくれたという、この「物語資本」が発明され機能してきたからこそ、「温泉はみんなのもの」として、お寺を中心に地域の方々によって大切に守られてきました。
2025年には、明治維新以来途絶えていた「献湯式」を約150年ぶりに復活させるなど、日本民衆の心性の根源にある神仏習合の歴史を現代の暮らしの中に取り戻す取り組みが進められています。
これを受け、山本先生からは、神話的な要素が現実の空間として見事に事幻化され「場所の資本」が実際に立ち上がっていることへの驚きとともに、「まさに明治維新を超える出来事を起こしている」との高い評価がなされました。明治政府による神仏分離によって分かたれてしまったものの、かつて民衆が当たり前に持っていた暮らしの中の信仰や精神性を、長門湯本は取り戻そうとしている。これは単なる消費経済の枠組みではなく、本質的な「資本の経済」を生み出す動きであると解説していただきました。
対話のなかでとりわけ印象的だったのは、恩湯を通じたコミュニティの変化です。開業当初は地元の方々から厳しいお声もいただきましたが、徐々に魅力が再発見され、オープン当初は1,800名だった長門市民の利用者数が、今では約4,200人へと増加しました。また、昔のように子どもたちの利用が増えつつあり、湯の中では地元のおじいちゃんと海外からのゲストが自然に言葉を交わすような光景も生まれています。
山本先生はこうした変化について、規範的な「社会資本」から、生きた「場所資本」への見事な転換が起きていると指摘されました。「場所の記憶は、そこに暮らす人たちの遺伝子に深く刻まれている」と語り、住民の方々が自らの情緒を取り戻していく過程で、そこに長く潜んでいた豊かな「絶対無」の場所(場所の潜在力)が浮かび上がってくるのだという解説は、参加者にとって大変示唆に富むものでした。
会議の結びには、大谷さんから「みんなで生活文化をつくっていこう」という温かいメッセージが送られました。長門湯本温泉は、これからも歴史や物語を大切にしながら、皆さまとともに豊かな「場所」を育てていく。そんな未来の形を共有する、熱気に満ちた2日間となりました。

































































































