長門湯本NEWS:ながトークvol.36レポート〜KOSHIRAERU 寳園純一さん・たくみの食たく 寳園多久美さんと語る「『好き』を、手でかたちにする」〜
2026年9月19日、「まちの番台」で「ながトーク vol.36」が開催されました。
今回お迎えしたのは、鹿児島県霧島市を拠点に活動するご夫婦、KOSHIRAERUの寳園純一さんと、たくみの食たくの寳園多久美さん。聞き手は蒲田商店の土田由里さんと株式会社Stapleの近藤将基さんが務め、「『好き』を、手でかたちにする ― 手仕事と食から考える、暮らしの楽しみ方」をテーマにお話しいただきました。
純一さんは「考える時間から感じる時間へ」をコンセプトに芸術家として、多久美さんは「食卓を最高の遊び場に」を掲げて食にまつわる活動を。芸術と食という別々の入り口を持つお二人が、「衣・食・住・教育」の4つを分けずに行き来しながら活動を続けています。
大島紬が教えてくれた、ものづくりの本質
大阪府出身の純一さんが奄美大島に移り住んだのは2009年。きっかけは、大学生のころに京都の着物店で出会った大島紬でした。
きらびやかな着物が並ぶなか、その中心にあり、最も値が張っていたのが大島紬だったといいます。なぜなのかを探るうちに、限られた島の資源だけであれだけのものを生み出しているという事実に行き着きました。
「日本人が失いかけた、ものづくりの本質がそこにあるんじゃないか」
毎年島に通うようになり、やがて移住。家具製造業を経て、2015年に『KOSHIRAERU』を立ち上げます。多久美さんは香川県出身で、京都でファッションを学びアパレルの仕事に就いたのち、結婚を機に2013年に奄美大島へ渡りました。
「美味しい」と「嬉しい」が重なるところに
食と正面から向き合うことになったのは、長男の食物アレルギーがきっかけでした。家族の食事を一から見直すなかで、「美味しい」と「嬉しい」が重なる場所にいたほうが、自分たちも子どもたちもより幸せになれるのではないか、と考えるようになったそうです。
転機は、純一さんの視察に家族で同行したフランスでした。多久美さんの幼なじみが暮らしていたディジョンは、マスタード発祥の地。「すごくおしゃれだったんです」と多久美さんが振り返るとおり、そこで出会ったマスタードは、おしゃれと美味しいと嬉しいが一度に重なる体験でした。鍵が酢にあると知り、移住先で出会った玄米黒酢を使って、和食に合うマスタードをつくりはじめます。2023年、多久美さんは『たくみの食たく』を起業しました。
いま多久美さんが最も力を注いでいるのは、料理そのものより手前にある、生産者さんとのつながりだと純一さんは話します。食材は手の届く範囲の生産者さんから。家族で畑に出かけ、野菜を分けてもらって帰って料理する。その日常が、そのまま発信になっています。
「人が好きです。物の先にやっぱり人がいるので、人を自慢したい」(多久美さん)
そのつながりを形にしたのが「美味しい一期一会」と題した食事会です。目標は、テーブルに並ぶもの全部に名前が付くこと。誰それの大根、どこそこの味噌——そう呼べるようになると、「いただきます」の意味合いが変わるのではないか、と語りました。
「衣・食・住・教育」を、分けずに
純一さんの手は、アート作品からアクセサリー、住まいの構想にまで伸びています。アクセサリーは「生活に支障をきたす」ほど存在感があって、それでも美しいものがテーマ。現在は東京のブランド「mizen」に採用され、東京コレクションのファッションショーでも使われました。霧島では、母方の実家の隣にあった借家を購入し、周囲の空き家も含めて「いまやっていることを増幅できる場所」にする構想が進んでいるそうです。
子育てで大切にしているのは、正解を与えるより「なぜ」と問いかけること。「答えはなくても、自分で答えを出せるようにしていきたい」。二人の息子さんはいずれも彫刻家を目指しているといいます。
「何がしたいの、と聞かれると結構困るんです」と純一さん。それでも、「楽しく、美味しく、美しく」を追いかけていけば、自分たちも周りも幸せになるのではないか。その一点は変わらないと話します。
和食に合うマスタードを、味わう
後半は、たくみの食たくのマスタードの試食です。
日本ではウインナーやホットドッグの印象が強いマスタードですが、フランスではピンクやグリーンのものが並び、フルーツに合わせることもあるのだとか。日本で味噌を仕込むような感覚で、家庭でつくられているそうです。
玄米黒酢で仕込んだラインナップは、黒糖・塩・醤油・はちみつの4種類。マスタードシードは蒸してから液体を加えることで、粒々の食感を残しながら、辛さを抑えた食べやすい仕上がりにしているといいます。
「食材がすごく美味しいから、食材の味をいただけるように。濃い味付けにはしたくない」(多久美さん)
この日は、蒲田商店のせいろで蒸した野菜に合わせて。白オクラには塩マスタード、なすは蒸してごま油をひとたらし。相性は固定せず、季節や食材の状態を見ながら日々試しているそうです。
味わった参加者からは「つぶつぶの食感が面白い」と声が上がり、蒸し野菜との相性のよさに話題が集まりました。
長門湯本とのご縁
お二人と長門湯本をつないだのは、聞き手を務めた土田由里さんでした。
「僕らが山口に来る理由って、実はそんなにないんです。でも、土田さんという人とのつながりがあって、来たいという気持ちになった。そこが大事で」
企画が先にあったのではなく、会いたい気持ちが先にあって形になった夜でした。
シルバーウィーク初日の夜。小雨がぱらつくなか、まちの番台にはのんびりとした時間が流れていました。お二人の話に耳を傾けながら、ほっこりと幸せな気持ちになる、贅沢なひとときでした。
寳園純一さん、多久美さん、そしてご参加くださった皆さん、ありがとうございました。