この土地に移り住むまで、私にとって長門市三ノ瀬に窯を構える萩焼深川窯、いわゆる「深川萩」は、あまり馴染みのない存在でした。とりわけ茶陶の世界は、どこか敷居が高く、少し遠いものに感じていました。美しいと思っても、どう向き合えばよいのか、どのように暮らしに取り入れたらよいのか、わからないところがありました。
そんな私にとって、毎年秋に開催される「うつわの秋」は、深川萩の魅力を知る大切な機会になっています。
今年の「うつわの秋」では、「茶菓一服(ちゃかいっぷく)」の喫茶会に参加しました。
「茶菓一服」は、深川萩の作家さんの茶碗で実際にお茶をいただきながら、作り手から直接お話を伺える催しです。各会にはそれぞれ異なる作家さんが同席され、作品やものづくりについてのお話を聞くことができます。
私が参加した会には、十六代坂倉新兵衛先生が同席されました。萩焼や深川萩について、そしてご自身の作品に込めた思いや制作にまつわるエピソードなど、普段なかなか伺うことのできないお話を聞かせていただきました。
参加者は8名。それぞれが使用する茶碗が並ぶことで、一度に8作品を見比べることができました。
一つひとつ手に取りながら、重さを比べたり、両手で包んだときの収まりを確かめたり。釉薬の艶や土のざらつきを手のひらで感じ取りながら、それぞれの茶碗が持つ表情や質感の違いを楽しみました。同じ茶碗というかたちでありながら、手に伝わる感覚はそれぞれに異なります。
作り手のお話に耳を傾けるだけでなく、参加者同士でも感じたことを話し合いながら茶碗を眺める時間は、とても楽しいものでした。
そして2服目には、深川五窯の8作家それぞれの茶碗が登場しました。
窯ごと、作家ごとに異なる作風や個性、ものづくりに対する考え方。普段はなかなか一度に触れることのできない、それぞれの茶碗を見比べ、実際に使いながら味わえるという、なんとも贅沢なひとときでした。
この会では、お菓子作りのデモンストレーションも行われました。
目の前で一つひとつのお菓子が形づくられていく様子を間近に見られるのも、貴重な体験です。
いただいたのは、一方隅冴さんがこの会のために考案されたお菓子。作り手の仕事を目の前で見て、その思いに触れながらいただくお菓子は、また格別でした。
茶碗とお茶、そしてお菓子。それぞれの作り手の仕事が重なり合う、豊かな時間を過ごすことができました。
これまで少し遠い存在に感じていた茶陶の世界が、こうした体験を通して、少しずつ身近なものになっていくのを感じます。
移住してから、我が家にも深川萩のうつわが少しずつ増えています。
初めて迎えたのは、長門湯本温泉街にある、深川萩のうつわが並ぶギャラリーカフェ「cafe&pottery 音」で購入した煎茶碗でした。
そして今年は、「うつわの秋」で角皿を一枚。
こうして一つ、また一つと、深川萩のうつわが暮らしに加わっていくことに、小さな喜びを感じています。
最初はただ美しいと眺めていたものが、実際に使い、作り手を知り、土地の文化に触れるなかで、少しずつ自分の暮らしと結びついていく。
かつては遠い存在だった茶陶も、今ではずいぶん身近なものになりました。
いつか自分のお気に入りの抹茶碗を迎えたい。そんな思いが、少しずつ強くなっています。
文:土田由里











