長門湯本NEWS:ながトークvol.35レポート〜『PAPERSKY』編集長ルーカス B.B.さんが語る「旅がつなぐ、人と地域の物語」〜
2026年8月8日、「まちの番台」で「ながトーク vol.35」が開催されました。
今回お迎えしたのは、トラベル・ライフスタイル誌『PAPERSKY』編集長のルーカス B.B.さん。聞き手は株式会社Stapleの近藤将基さんが務め、「旅がつなぐ、人と地域の物語」をテーマにお話しいただきました。当日は10名ほどが参加し、旅を通して地域と向き合い続けてきたルーカスさんの言葉に、会場は静かに耳を傾けました。
長門湯本温泉と『PAPERSKY』とのご縁は、2025年の山口特集号「Walkable」をきっかけに始まりました。その発刊を記念した「ながトークvol.29」、今年4月の「PAPERSKY STORE POP-UP@まちの番台」、そして韓国版への掲載へと交流を重ね、今回のながトークが実現しました。
日本との出会いが、旅の原点に
ルーカスさんが日本に興味を持ったきっかけは、サンフランシスコの書店で偶然手に取った一冊の日本の雑誌でした。
ページをめくった瞬間の衝撃が忘れられず、大学卒業の翌日には日本行きの飛行機に乗っていた——1993年のことだったそうです。
来日後は横浜で子ども向け英語教室に携わる一方で雑誌づくりを始め、1996年には日英バイリンガル誌『TOKION』を創刊。日本の若者文化を国内外へ発信しました。その後、親子向け雑誌や野外フェスティバルなどを手がけ、2002年には旅をテーマにした『PAPERSKY』を創刊。以来20年以上にわたり、「旅を編集する」という独自のスタイルを築いてきました。
「紙には、残る力がある」
創刊当初、『PAPERSKY』の特集の多くは海外でした。しかし現在は、そのほとんどが日本各地を取り上げています。
「日本を訪れる人が増えているからこそ、自分が好きな日本をきちんと伝えたい。」
その思いが、誌面の重心を少しずつ日本へと移していったのだと語ります。
現在は韓国語版、英語版、台湾版、中国語版も展開。山口特集の韓国版は、韓国の読者が山口へ目を向けるきっかけになっているそうです。台湾版ではしまなみ海道を特集し、11月には台湾の読者を対象としたツアーも予定しているとのことでした。
「紙には、残る力がある。記憶に残る力がある。」
そう語るルーカスさんにとって、雑誌は情報を届けるだけの存在ではありません。実際にその土地へ足を運び、人と出会い、体験することまで含めて初めて旅は完成する。雑誌、イベント、コミュニティ、プロダクト——それらを自由に行き来できる立体的なメディアを目指しているという言葉に、多くの参加者がうなずいていました。
自転車で旅をするということ ― PAPERSKY Tour de Nippon
『PAPERSKY』が全国各地で続けている自転車の旅「PAPERSKY Tour de Nippon」の話題では、会場の関心も一層高まりました。
歩きよりも広い範囲を巡ることができ、それでいて車では出会えない風景にもたどり着ける。1日に約100kmを走りながら、その土地でしか出会えない「生きた情報」に触れることができる——それが自転車旅の魅力だといいます。
印象的だったのは、コースづくりへのこだわりでした。
「曲がり角がひとつ変わるだけで、走る人の気持ちは変わる。」
しまなみ海道を例に挙げながら、地域の魅力を伝えるルートづくりの重要性を語りました。
そして今回、ルーカスさんは「来年秋に山口でTour de Nipponを開催したい」という構想も披露。今回の来訪は、その下見も兼ねていたそうです。
「山口には美しい景色と、まだ知られていない道がたくさんある。コースをつくりやすい場所だと思います。」
ルートづくりは、これから地域の皆さんと一緒に考えていきたいとのことでした。
歩くことは、地域を学ぶこと― KATSUO TRAIL
もうひとつ紹介されたのが、静岡県焼津市を拠点に取り組む「KATSUO TRAIL」です。
約220kmに及ぶループ状のトレイルには、歩くコースと自転車のコースが整備され、カツオ漁や木材、お茶、徳川との関わりなど、その土地の文化や暮らしを感じながら巡ることができます。
その背景にある考え方が「歩く学び(Trail Learning)」。
歩くことそのものが、その土地を知り、学ぶことにつながる——そんな旅のあり方を紹介してくださいました。GPSデータを活用し、自分のペースで歩ける仕組みづくりや、今後は地域ガイドクラブの構想も進めているそうです。
これからの夢、「PAPERSKY INN」
最後に語られたのは、新たな夢である「PAPERSKY INN」の構想でした。
数室だけ、あるいは一組限定で泊まれるような、小さな宿。
派手な施設ではなく、その土地の魅力を深く味わい、「また帰ってきたい」と思える場所をつくりたい——そんな思いが込められています。
まずはKATSUO TRAILのスタート・ゴール地点での開業を目指し、その後は日本各地へ展開していきたいとのこと。その候補地のひとつとして、長門の名前も挙がりました。
また、長門湯本温泉の恩湯についても、「歴史を大切にしながら現代へとアップデートしている場所」と評価してくださいました。『PAPERSKY』が大切にしてきた「小さなものが大きな影響を生み出す」という考え方と重なる存在だと語ってくださいました。
外からのまなざしが、地域の価値を教えてくれる
旅とは、情報を集めることではなく、生きている土地や人に出会うこと。
歩けば歩くほど、自転車で走れば走るほど、その土地の表情は少しずつ変わって見えてくる——ルーカスさんの言葉からは、そんな旅の本質が伝わってきました。
そして、外から訪れた人のまなざしは、私たち自身にも、この土地の魅力をあらためて気づかせてくれます。
地域の未来や旅の可能性について考える、実りある一夜となりました。
ルーカスさん、近藤さん、ご参加くださった皆さん、ありがとうございました。